PART 1 ~旅のはじまり~ 【錦乃】
2017.05.11
子どものころ冷やし中華が好きで、夏になると親戚の家でよく出前をとってもらった。
なぜ親戚かというと、自分のところは僻地で食堂なんか1軒もなかったから街の親戚に遊びに行ったときぐらいしかそんなぜいたくはできなかったということ。
かき氷も同じ店の出前だった。そういえばラーメンもチャーハンもそうだ。いったい何屋なのかというと、老舗そば屋なのであった。
成人して年を重ねるにつれてお店の冷やし中華というものに接する機会は徐々に減っていった。30を過ぎるころからはすっかり疎遠になった。
どこか、程度の高くない食べ物、というような意識が働いていたのかもしれない。
しかし今年は少し計画的に冷やし中華というものに向き合ってみようと考えている。
懐かしのB級グルメの代表格であり、避けては通れない道のような気がする。子どものころに好きだった食べ物だから心理面で何らかの刺激を受けるかもしれない。
こういう発想を懐古趣味といわれても反論はしない。

それで少し調べていて、見た目というか具材のバランスがよさそうで第一候補に挙げていたのがこの「錦乃」。
この店は外観からしてグッとくるものがある。マンション1階なのになぜか場末の地下街のような薄暗い通路、紺地に白抜きの暖簾、赤枠のメニュー短冊…。もう飲み屋にしか見えない。
店内は6人掛けテーブルと4人掛けテーブルが各2つ。4人掛けの一方が空いていたが、カウンター的な使われ方がされていそうな6人掛けの端に座る。
店内に冷やし中華の掲示がないので少し焦ったが、麦茶をもってきたおねえさんに確認し、やっているとのことなので予定どおり注文。

目の前の壁に穴八幡の一陽来復の御守が貼ってある。うちでも毎年貼っているが、今年は早々に落ちてしまった。落ちれば金運の効力はなくなるという。
こちらでは落下防止対策は万全だ。御守を台紙に貼って、その台紙が何本もの画びょうで厳重に壁に留めてある。念のため本体の上から腰帯状に粘着テープを渡してある。さらに御守の上部は接着剤のようなもので天井に固定されている。
見た目なんかどうでもいい。よっぽど金銀融通の御利益にあずかりたいらしい。

冷やし中華750円は想定どおりのビジュアル。冷ややっこと、なぜか乳酸飲料が付く。
具は、厚焼き玉子、かにかま、ハム、キュウリ、モヤシ、トマト、ワカメ、紅ショウガ、サラダ菜、サクランボ。ゴマがふられ、レモンが添えてある。
サクランボが缶詰じゃないところが昭和とは違う。3粒もある。

ひと口食べて、ああ懐かしい、という感想。冷やし中華は麺のかん水臭さが強く出るような気がするが、それが主要な懐かし要素なのかもしれない。
タレは、しょうゆ、酢、砂糖、ごま油という基本的な配合だが、甘味がかなり支配的だ。レモンを目いっぱい搾っても薄まらない。なんだかごはんを食べている気がしない。
気になったのがサクランボの取り扱い。出されたときはサラダ菜の上に鎮座しているから油断してしまうが、食べ進むにつれて海岸線は後退していくわけで、そうするとサラダ菜の浮力なんて知れたものでサクランボの自重でどんどん水没していく。気づいたときにはタレの海に首までつかってる。
これはどうしたらいいんだろう? はじめに食べるのも変だし、デザート扱いだとしても避難場所が見当たらないし。
冷やし中華にはフルーツがのっていることが多いが、それは大きな問題をはらんでいるといわざるを得ない。

冷やし中華においしさを期待するのは無理があるかもしれない。では何を求めるかというと、僕は懐古趣味でもかまわないと思っている。
この店の看板は「カレーとラーメン」となっている。なんか大ざっぱだ。冒頭のそば屋もそうだが、そういう“何でもあり”的な大らかさが冷やし中華という食べ物をつくり出した。だからこういうゆるくレトロな空間で味わうことのトータル性が意味を帯びてくる。
食後の日清ヨークも重要な小道具だ。そういえばここの麦茶はかすかに甘い。それでもう十分すぎるほど楽しい。
サクランボ問題は実は解決している。タレ味のサクランボをそのまま食べればいいのだ。ビミョーな表情を浮かべながら。
冷やし中華をめぐる冒険が始まった。この先、どんなツワモノが待ち受けているのか、どこまで遠く歩みを進めることができるのかワクワクする。
それからこの錦乃の次の課題はカレーに決まる。

[DATA]
錦乃
東京都小平市花小金井1-12-2
[Today's recommendation]

https://youtu.be/s_pkRH2DZuw
子どものころ冷やし中華が好きで、夏になると親戚の家でよく出前をとってもらった。
なぜ親戚かというと、自分のところは僻地で食堂なんか1軒もなかったから街の親戚に遊びに行ったときぐらいしかそんなぜいたくはできなかったということ。
かき氷も同じ店の出前だった。そういえばラーメンもチャーハンもそうだ。いったい何屋なのかというと、老舗そば屋なのであった。
成人して年を重ねるにつれてお店の冷やし中華というものに接する機会は徐々に減っていった。30を過ぎるころからはすっかり疎遠になった。
どこか、程度の高くない食べ物、というような意識が働いていたのかもしれない。
しかし今年は少し計画的に冷やし中華というものに向き合ってみようと考えている。
懐かしのB級グルメの代表格であり、避けては通れない道のような気がする。子どものころに好きだった食べ物だから心理面で何らかの刺激を受けるかもしれない。
こういう発想を懐古趣味といわれても反論はしない。

それで少し調べていて、見た目というか具材のバランスがよさそうで第一候補に挙げていたのがこの「錦乃」。
この店は外観からしてグッとくるものがある。マンション1階なのになぜか場末の地下街のような薄暗い通路、紺地に白抜きの暖簾、赤枠のメニュー短冊…。もう飲み屋にしか見えない。
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店内は6人掛けテーブルと4人掛けテーブルが各2つ。4人掛けの一方が空いていたが、カウンター的な使われ方がされていそうな6人掛けの端に座る。
店内に冷やし中華の掲示がないので少し焦ったが、麦茶をもってきたおねえさんに確認し、やっているとのことなので予定どおり注文。

目の前の壁に穴八幡の一陽来復の御守が貼ってある。うちでも毎年貼っているが、今年は早々に落ちてしまった。落ちれば金運の効力はなくなるという。
こちらでは落下防止対策は万全だ。御守を台紙に貼って、その台紙が何本もの画びょうで厳重に壁に留めてある。念のため本体の上から腰帯状に粘着テープを渡してある。さらに御守の上部は接着剤のようなもので天井に固定されている。
見た目なんかどうでもいい。よっぽど金銀融通の御利益にあずかりたいらしい。

冷やし中華750円は想定どおりのビジュアル。冷ややっこと、なぜか乳酸飲料が付く。
具は、厚焼き玉子、かにかま、ハム、キュウリ、モヤシ、トマト、ワカメ、紅ショウガ、サラダ菜、サクランボ。ゴマがふられ、レモンが添えてある。
サクランボが缶詰じゃないところが昭和とは違う。3粒もある。

ひと口食べて、ああ懐かしい、という感想。冷やし中華は麺のかん水臭さが強く出るような気がするが、それが主要な懐かし要素なのかもしれない。
タレは、しょうゆ、酢、砂糖、ごま油という基本的な配合だが、甘味がかなり支配的だ。レモンを目いっぱい搾っても薄まらない。なんだかごはんを食べている気がしない。
気になったのがサクランボの取り扱い。出されたときはサラダ菜の上に鎮座しているから油断してしまうが、食べ進むにつれて海岸線は後退していくわけで、そうするとサラダ菜の浮力なんて知れたものでサクランボの自重でどんどん水没していく。気づいたときにはタレの海に首までつかってる。
これはどうしたらいいんだろう? はじめに食べるのも変だし、デザート扱いだとしても避難場所が見当たらないし。
冷やし中華にはフルーツがのっていることが多いが、それは大きな問題をはらんでいるといわざるを得ない。

冷やし中華においしさを期待するのは無理があるかもしれない。では何を求めるかというと、僕は懐古趣味でもかまわないと思っている。
この店の看板は「カレーとラーメン」となっている。なんか大ざっぱだ。冒頭のそば屋もそうだが、そういう“何でもあり”的な大らかさが冷やし中華という食べ物をつくり出した。だからこういうゆるくレトロな空間で味わうことのトータル性が意味を帯びてくる。
食後の日清ヨークも重要な小道具だ。そういえばここの麦茶はかすかに甘い。それでもう十分すぎるほど楽しい。
サクランボ問題は実は解決している。タレ味のサクランボをそのまま食べればいいのだ。ビミョーな表情を浮かべながら。
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冷やし中華をめぐる冒険が始まった。この先、どんなツワモノが待ち受けているのか、どこまで遠く歩みを進めることができるのかワクワクする。
それからこの錦乃の次の課題はカレーに決まる。

[DATA]
錦乃
東京都小平市花小金井1-12-2
[Today's recommendation]

https://youtu.be/s_pkRH2DZuw
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