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貴重な現存カレースタンド 【モンスナック】

2019.03.04

 新宿紀伊國屋書店といえばいまだに庄司薫の『ぼくの大好きな青髭』が思い出される。地方の高校生だった自分はこういう小説を読んでは東京での学生生活へのあこがれを募らせ、それが大学受験の大きなモチベーションとなった。困ったことに僕の読むこのテの小説は、たいてい主人公が東大生(作者が東大卒)であり、東京大学に籍を置いてこそそれらの体験が特別なものに映るのではないかと懐疑的に思うところなきにしもあらずだったが、おかげで高い目標意識につながったことは確かである。まるで自分が東大をめざしたかのような書き方だが(笑)。


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先日、久々に紀伊國屋を外から眺めて驚いた。
両脇のビルが取り壊され、紀伊國屋だけぽつんと取り残された感が漂っているのだ。

紀伊國屋ビルディングは2017年、東京都選定歴史的建造物に選定されている。これは東京都景観条例に基づき知事が選定するもので、規制ではないが“ゆるやかな保存”を基本とする。
一方、このほど発表された“旧耐震基準”に準拠して建設された建造物の耐震性調査結果によると、震度6強~7程度の揺れで倒壊する危険性が高いものは都内で156棟に上り、紀伊國屋ビルもそれに該当する。
景観上の重要性と建物の安全性をはかりにかければ、後者が優先されるべきは明らか。左右が空虚であると、ひとりぽつんと立つ姿はいかにも心もとない。


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紀伊國屋ビルは、書店はもとよりレコード・CDショップ、小劇場演劇のメッカ「紀伊國屋ホール」などを有し、若者の学問・文化・芸術活動を支えた。
そして忘れてならないのが地下飲食店街。


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紀伊國屋は地下といわずビル全体、周囲の路地にまでカレーの匂いが漂っている。
地下飲食店街には昔から、(自分の知る限り)カレーショップが2店あり、匂いのもとと目されていた。そのうち「ニューながい」は2011年秋に閉店、あとには「クローブ」というやはりカレーショップが入ったが、昔ながらのカレーを提供するのは「モンスナック」1店のみとなった。


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そのへんの事情に関し、興味深い書き込みを見つけた。
込み入ったことにコメントする立場にないが、一連のツイートによれば、紀伊國屋ビルでいまも残る個人経営の飲食店は「モンスナック」のみ。
お店ホームページによれば「モンスナック」の創業は昭和39年と、紀伊國屋ビル竣工と同年である。


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店内はU字カウンターのみ(13席)。いまやめったに見られないカレースタンドの往年のスタイルを残す。
13時30分で半分ほどの客入り。


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注文は“本日のサービスメニュー”カツカレー900円→800円。


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中国系? のおねえさんが「カツー」と、投げやり感たっぷりに奥の厨房に伝達。
そしてそのカツカレーが3分ほどで出てくるところがすごい。


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こちらのカレーは“変わらぬ製法にこだわった元祖サラサラカレー”(HP)。
サラサラまたはシャバシャバと表現されるスープのようなカレーだが、いっときはやったスープカレーとは、なんか違う。シャバシャバしてるけどボディ感があるというか。


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甘味に加えて酸味が強いのが特徴。あの時代、カレーといえばポークカレーであり、トロトロの脂身はシャバカレー以上に懐かしい。
カツは厚みがあってスプーンではカットしづらいほど。サクサクの衣がシャバシャバの海を漂ううちにしっとりカレーを吸い取って、いい感じ。


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昭和の食堂めぐりは、年齢を重ねるごとにどこかに置き去りにしてきた大切なものを拾い集める旅のようなもの、かも…。


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――1969年7月20日の午前10時少し過ぎ、開店直後の新宿紀伊国屋のエスカレーター昇り口のわきのところで、ぼくは一体自分が第三者の目にはどんな若者にうつっているのかを初めはちょっと相当に気にしながら、激しい夏の陽ざしの中に突っ立っていた。というのもぼくは、洗いざらしの淡いブルーのダンガリーの上下に薄茶の細縁のサングラスをかけ(これは問題ないわけだ)、この春植木屋が縁の下に置き忘れていった古い麦わら帽子をかぶって素足に木のサンダルをつっかけ、薄鼠色になった古い昆虫網を小脇にかかえて、さらに(ここが重要なのだが)鼻の下にかなり立派な八の字型の髭をつけてあたりを睥睨(へいげい)していたのだ。(庄司薫『ぼくの大好きな青髭』より)


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[DATA]
モンスナック
東京都新宿区新宿3-17-7 紀伊國屋ビルB1F
http://www.monsnack.com/





[Today's recommendation]

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https://youtu.be/VsOXimmwwxI


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No title

hobohoboさん、つかりこさん

みんな知ってる紀伊国屋書店。たしかに紀伊國屋2階のレコード売り場は帝都無線でしたね。
はじめて帝都無線でLPレコードを買った時には、虹色の袋に心がときめいたのを覚えています。
なにせ、近所のレコード屋さんといえば新生堂。家に帰ってから並べてみました。
買った中身と同様に包装紙まで大事にするっって、、、みんなにも覚えがあるでしょ?(苦笑)

それと・・
いや本当、KUONさんの仰る通りで、アマゾン川の泥水に侵食されて人が立つ瀬も今やぬかるみ。
僕の知っている若い人も、数年前には自慢げに南米の川について語ってました。それは自分の財布の負担を一時的に減らしているだけだよと言っても逆ギレ。今になって周囲の状況に言葉もなしの有様です。
密林に入ってしまえば、程よく主張する良い木に目は行かず。自国を己がエゴで荒らしたこを顧みないと・・・
それでも言えるか、これからは大手の・・・・・・アホか!

さぁ、遅いお昼をカレーで済まそうかな。。

Re: No title

KUONさま

20年前ということはミレニアム騒ぎのころですね。
そのころ僕は西新宿の某編集部に毎日通っていたので、昼ごはんは新宿駅周辺で1人で食べていたはずですが、ほとんど覚えていないんです…

書店の店員が「これからは大手の時代」って、ほんとアホか! ですよね。
それって端的に、南米の大河にのみ込まれる以外のシナリオを描く能力の欠如表明… 以外のなにものでもないし。

僕はKUONさんのようにさくさくとはいかないので慎重に言葉を選んでるつもりなんですが、ときどき時間がなかったりでこういうキザというかへたくそのまま、エイや! とやっつけちゃってます。
次は「汚れつちまった…」という表現を使ってみようかと…(笑)

Re: No title

egochannさま

コメントありがとうございます。

もともとコーヒーショップで場所も違っていたんですね。
知りませんでした。
カレースタンドもそうですが、コーヒースタンドというものも(シアトル系等を除き)見かけなくなった気がします。
カウンター席でモーニングセットなどというスタイルが懐かしく思い出されます。

Re: おっはー

つかりこさま

18の春、初めて新宿に行った目的は食べ物ではなくレコードでした。
雑誌広告で知っていた帝都無線のレコード売り場がいまの無印良品新宿店(or その隣?)の地下にあり、品ぞろえに興奮して5枚組ボックスセットなどを買ったりして。レコードプレーヤーもないのに(笑)。
紀伊國屋2階のレコード売り場も帝都無線だったんじゃないでしょうか…?

紀伊國屋ビルの1階・地下とか三平ビルとか、若いころは何が何だかカオス状態で、正確なところは思い出せないんですよね…
「モンスナック」はいつも混んでいるので避けていたと思います。

> 具も、キャラメルサイズ程度の豚バラの角片が、3個ほど転がっている
> だけで、あとはなんにもなしでした。

↑当時のカレースタンドの標準じゃないでしょうか。
いまだに豚バラ角片を見ると気分が高まります。
いまではむしろ貴重ですよね…

Re: No title

ツキさま

実はほかのお店のことはほとんど覚えておらず、唯一はっきり記憶しているのが「ファーストキッチン」なんです。
入ったのは1989年10月。
その日は1日中、女の子に声をかけまくるという仕事で、そんなことは後にも先にも経験がないので午前中はまったくうまくいかず、疲れきって昼ごはんに入ったのがここのファーストキッチン。
一緒に回っていただいぶ年かさのカメラマンさんの分も払ったのを覚えてます。
青春の光と影的な、新宿紀伊國屋の思い出…

No title

この店には行ったことあります。もう何十年も昔、そして二度目は、二十年昔。

福神漬けがこんなに美味しいなんて、と改めて感じた記憶があります。富士には月見草、カレーには福神漬けがよく似合う。タハ。

書き込みの黄色い文字のとこも読みました。よくは判らないのでよく言えないですが「これからは大手の時代」とか、読んでまず「アホか」と。そうではあろうが、そうでないところで、ワタシは、生きていたいと思いました。

「置き去りにした悲しみは」というタクローの歌が脳内に鳴り響きましたのは、最後に近い2行。そんな「旅」を、これからも、追いかけて行きたいです。少しキザになってコメント終わります、ペコリ。




No title

はじめまして。

ここの店は自分の青春時代ともろかぶりしています。どのくらい入ったかは分からないほどです。以前はカレーも一種類で、コーヒーも飲めるスタンドコーヒーの店だったのですが、店の位置が変わってからカレー専門店になったと記憶しています。もう何十年も入ったことはありませんが、懐かしい思いがしました。

おっはー

19の春、東京に出てきて、新宿に初めて行って、
初めて入った飲食店が「桂花」かこの「モンスナック」でした。
(どっちが先だったか忘れた)
いずれも、hobohoboさんみたく、田舎にいた時から “あこがれ情報” を
持っていたわけではなく、東京ッコが連れて行ってくれたのです。

その当時のモンスナックの最大の特長は、「安い」ことでした。
たしか、ポークカレー1皿・290円くらいだったはず。
「カレーの王様」の王様カレーが、350円くらいだったので
その当時でさえずいぶん安いと感じたもんです。
そして、あのしゃばしゃば。
これも、ずいぶんしゃばしゃばだなー、と思いました。
いまのしゃば感より、もっとしゃばでしたよ。
具も、キャラメルサイズ程度の豚バラの角片が、3個ほど転がっている
だけで、あとはなんにもなしでした。
しかし、味はバツクン。
独特のスパイスがきいていて、けっこう辛い。
たしかに、クセになるコストパフォーマンスでした。
それから行列。
いつ行っても、すぐに座れることはなかったですねぇ。
切り盛りも、気難しげなおじちゃんとおばちゃんだったんですよ。

それが、ある時からがんがん値上がりして、
トッピングメニューもどんどんふえて、
厨房も接客も人が変わりましたねぇ(アジア系外国人?)。
カレーソースのしゃばの色もとろみも変わって、まるで別モノ。
僕は経営者が変わってしまったのだな、と思っていました。
まあ、いまはいまで、おいしいですけどねー。

No title

まぁ何と5品も本日のサービスメニュー!!太っ腹なお店ですな(笑)

去年の秋に向かいのカリー屋さんに入ったのですが、美味しくても自分の座る処ではないと感じまして。。やっぱ庶民のお店で本日のカレーか、並んでいるスパゲッティーのカウンターですかね。何だか、この二店は雰囲気が似てる。

それと気になるのは地下に潜る際にまず目にするファーストキッチンの客席。あそこで鎮座するのは勇気が要りそうですね。ドヤ街の路面酒場でなら酔って和めそうなロケーションですが、腐っても鯛。左右裸にひん剥かれても紀伊国屋。ファーストキッチンでチンチン!!な気分は無理です(汗)

この建物は、一階と地下で全てを物語っていると思います。あと、暮れのシーズンの階段かな。仕上げに川で泳がせる鯉のぼりよろしく、カレンダーの大漁旗が壮観ですよね。
書店の雄、紀伊国屋本店。いつまで膝を折らずに構えていられるか。本は水を嫌うんだ。南米の川には負けるな!!
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