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武蔵野のうどん屋という空間 【宅部うどん】

2017.09.23

 狭山公園でイベントが行われるというので様子を見に行くことになった。このところすっかり体がなまっているので、運動を兼ねて少し歩くことに。廻田図書館あたりから上って、丘を越えるルートを選ぶ。
このあたりの地形は基本的に斜面で、畑や雑木林、古い墓地を縫うように曲がりくねった細道、急坂が走る。途中、回田小学校のあたりはちょっとした街のように開け、周りの坂が結界をなすことによって閉じられた小宇宙の様相。飲食店がないのは寂しいが。


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狭山公園に来るのは久しぶりで、ずいぶん様子が変わっている。薄暗い印象だったダムの下流部は樹木が剪定され、芝生を生かした明るく開けた雰囲気になった。
イベントはこのあたりで行われるらしいが、何の気配もない。朝まで雨が残ったから中止かな?

「え、夜じゃないの?」と妻。「野外で映画やるっていうんだから」
「あ、そういうことなの?」

イベントのタイトルは“里山シアター feat. ねぶくろシネマ”。映画関連用語が2つも入っているにもかかわらず、僕は“里山”までしか見ていなかったようだ。あと、イベント概要にある“飲食物(軽食)販売”の文字。だいたい祭りやイベントというと、どこの店がどんな食べ物を売るのか、ということにしか関心が向かない。食欲バカである。

ちなみに“ねぶくろシネマ”とは「河川敷の橋脚などに映画を映し、星空を見ながら映画・飲食とともにその雰囲気を楽しむ」という、映画のまち・調布で誕生したイベント。この夜は映画『ベイブ』の上映を無事終えたとのこと。


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.
山越えルートを踏破し、なんとなく所期の目的も達成?し、時刻は12時28分。

腹が、減った…

そういえばすぐそこに有名なうどん屋がある。


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「宅部うどん」は、民家の庭先の掘っ立て小屋という武蔵野うどんの典型スタイル。
店先に丸型ポストが2つ。よく見ると庭木の向こうにもう2つ。“東京の田舎”小平・東村山地域の田舎ぶりを象徴する丸型ポストと代表食品・武蔵野うどんを有機的に結び付けるイメージ戦略だが、店内にはたばこや切手の看板が飾ってあるので、もともと専売品を扱うお店で、ポストも置いていたという流れかもしれない。


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口コミの多い有名店で公園も近いだけに、ウォーキングやサイクリングがてら立ち寄る通っぽいおやじ客が多そうと想像していたが、全然違っていた。


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入り口の引き戸を開けると、お客さんが2人、何というか、昭和一桁であった。つまり近所のおじいさん。
ポストには若干つくり込みのニュアンスを感じなくもないが、これは本物(笑)。舞台セット扱いのようで申し訳ないが、古びた店のたたずまいに完全に溶け込んでいる。


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そうなると、もう目に入るものすべてが“本物”に映る。前述のホーロー看板、柱時計、古い桐のたんす・戸棚、なぜか張ってある西武線の路線図…。この空間そのものが、一つの秩序ある調和のとれたシステム(cosmos)なのであった。


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注文は、かけうどん3玉510円(僕)、肉汁うどん2玉530円(妻)。
お店を切り盛りするのはおばちゃん2人。これも武蔵野うどんの典型的な業態。途中、男子中学生が「鍵、開いてないよ」とか言いながら入ってくる。どっちかのおばちゃんのお子さんだろうか。裏に自宅があるとかで。土曜の昼に中学生が下校する光景というのも、なんか昭和的。


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どちらも天ぷら3種(カボチャ、ニンジン、春菊・ニンジン・タマネギのかき揚げ)付き。糧・薬味はダイコン、ホウレンソウ、ネギ、ショウガ。
うどんはいわゆるゆで置きだが、店先に掛かっている製粉工場のカレンダーに“国産小麦100%”とあるように、地粉を使った素朴で味わい深いもの。太麺で、かむほどに甘味と香りが広がる。


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こういう店で特に今日のような設定では、ゆで上げでコシが強い完成度の高いうどんよりこういうモソモソ系が出てくるほうが、はるかに調和がとれて感じられるところが興味深い。武蔵野うどんをかけで食べたのは初めてで、つけうどんよりもっとモソモソとなるが、これはこれでおいしいと、僕は思う。
うどんと天ぷらのボリューム感に糧・薬味もたっぷりで、2人合わせて1040円と、どこまでも調和を乱す要素が入ってこないのである。


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おじいさんたちは帰路、支え合うようにゆっくり坂道を上っていく。
その後ろ姿を見送りながら、もしかしたらこの人たちは70年来(あるいはそれ以上)の付き合いなんじゃないだろうかと思った。


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[DATA]
宅部うどん(やけべうどん)
東京都東村山市多摩湖町3-3-20





[Today's recommendation]


https://www.youtube.com/watch?v=ccJTFXvkXkA



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Re: No title

ありがとうございます。
私も、こういうのいいなぁ、と思いました。
自分のそれとは違う時間の流れというか、おじいさんたちは古き良き時代を生き続けているんだと思います。

No title

おじいちゃんの写真が良いですね!
店内の写真も味があるなあと思ったのですが
油断した時の最後の一枚に心を持っていかれました。
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