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茶そばの記憶、にはオチがつき… 【長寿庵 元町】

2018.06.21

 30年前の話だが、六本木で働いていたころ、会社の入っているビルの1階がそば屋の「長寿庵」で、昼ごはんによく利用していた。
といっても、近場のそば屋としては「本むら庵」や「狸穴そば」が断然格上で、「長寿庵」は忙しいとき、時間がないときに入る食堂という位置づけ。実際、そばの記憶がなく(食べていないはずないが)、カツ丼を食べていたことしか覚えていない。
ただし「長寿庵は普通のそばは普通だが、茶そばはおいしい」と言う上司はいた。

午後の遅い時間に1人で長寿庵に入ったとき、客のほとんどいない店内中央の席に紋付き袴の老人が座っている。
出された茶そばをすすっては店主に偉そうに説を垂れていた。
つゆに浸すことなくそばをすすっていたのが印象に残っている。
店主のへりくだった様子から、長寿庵総本家あたりの重要人物らしいことはうかがえた。

何げなく壁の暖簾会の額縁を眺めていると、おもむろに老人が声をかけてきた。
「どうですか、お若いの(と言ったかどうか定かでないが)。入ったことのある店はありますかな?」
名簿を見直して、当時住んでいた新中野の桃花小学校裏手の店を見つけ、一度入ったことがあると答えると、
「ああ、あそこはいけません。勉強が足りない」
やはり暖簾分けの店の味見をして回っているんだと思った。


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某ラーメンチェーンでは覆面調査員がフランチャイズ店を巡回しているという話をテレビで見たことがあるが、その陰湿な手法に比べ、時代の違いはあるだろうがなんとも大らかで格式高い査察である。
長寿庵の印象がガラッと変わったのは言うまでもない。あくまでも30年前の過去形だが。
ちなみにその1カ月後、乃木坂の長寿庵で同じ老人の査察現場に遭遇している。


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所沢の元町交差点付近に気になるお店があって様子を見に行く途中、「長寿庵 元町」の前を通ると、ショーケースのガラスに“狭山茶そば”の短冊が張ってある。
そのまま通り過ぎて交差点のほうに下っていったが、“長寿庵+茶そば”で昔の六本木の出来事を思い出した。


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短冊には“ふる里の香り”とも書いてあった。
“狭山茶どころ”所沢で茶そば。
なんともそそられるイメージに、上り坂を引き返した。


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民芸調の立派なつくりの店内、席は8人テーブル、4人テーブル2卓、小上がりに4人用座卓3卓がゆったり配置されている。
使い勝手はよさそうだが、11時53分でお客さんはゼロ。


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街そばの例に漏れず、こちらも出前主体の営業のもよう。


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品書きを何度見直しても茶そばが見当たらないので、お茶を運んできたパートっぽいおばさんに聞いてみた。
「えーと、茶そばは?」
「茶そば…?」
「あれ? 表に張り紙が…?」
「張り紙…?」
張り紙確認のため、一緒に表に出る。


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「山菜そば…(苦笑)」とおばさん。
あからさまに当方の漢字能力を疑問視しているまなざし。
「おかしいな…」と頭ポリポリやりながら席に戻り、照れ隠しに「じゃ、その冷やし山菜そばお願いします」


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思い込み、または空目というやつ。
よく見ると、キャッチコピーも“ふる里”ではなく“里山”だ。
常日ごろ、「思い込みが激しいんだから、いったん立ち止まって咀嚼してからリアクションを起こすように」と相方に言っておきながら、形無しである。


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冷やし山菜そば(ぶっかけ)930円は、山菜の水煮のほかにオクラと山芋、天かす、刻みノリがのる。
小鉢のサラダが付く。


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暑い夏にさっぱりいただけ、同時にネバとろコンビで夏バテ対策を、という季節メニュー。
皿がバカでかいので写真ではわかりづらいが、まあまあボリュームもある。


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こういうことでもなかったら食べることのないメニューだと思うので、それはそれでいいのかな。
空目も、30年前に2度出会った、かの老人の取り計らいかもしれないし… と。

それにしても、悔しいやら恥ずかしいやら。
どこかに本当に“狭山茶そば”なるものを出すそば屋はないものか。


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[DATA]
長寿庵 元町
埼玉県所沢市元町8-16



[Today's recommendation]

FM Surveillance
FM
『Surveillance』

https://www.youtube.com/watch?v=i3_q5d17XfI



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◆ 猫写真はこちら



 ニワウメのお酒

10年前くらいに滝山の「ドイト」で買ったニワウメは大ぶりでサクランボ様の実をよく付ける。“チャイナチェリー”の名で売られていた。意外なことに実生の発芽率がよく、こぼれ種で増え、いつの間にか狭い庭の一角がニワウメ畑になっていた。放っとくわけにもいかないし、抜いて捨てるのも忍びない。どなたかに若木を差し上げたいくらい(笑)。収穫した実は25度の麦焼酎に漬ける。

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