解けた謎と新しい謎 【富寿司】

2018.06.01

 東村山市本町、空堀川のほとりのすし屋「富寿司」は謎に満ちている。
わかっていることは、月曜定休、木曜はすしの日(にぎり・ちらしとも600円)で、それ以外は定食の日。
そもそも営業時間がわからない。ランチタイムは、たぶん11時半ごろからネタがなくなるまでだと思うが、夜についてはまったく不明。


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昼どきにのれんが出ていたり出ていなかったりするが、出ていなくてもお客さんの気配はある。ほとんどが常連客なので、のれんや“営業中”のプレートを出すまでもないということかもしれない。
とはいえ、“準備中”のお店に入るわけだから、それ以外に何らかの入店OKのサインはあるはず。
店の前に出前用のカブが出ているかどうか。そのへんに答えが隠されている気がする。
まあ、最近はのれんが掛かっている頻度が高くなってはいるが。


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そのカブだが、誰が、何のために使うのか、これまた謎だった。このお店では出前はやっていない。
その謎が先日解消した。
珍しく午前の早い時間に家を出て富寿司の前を通りかかると、天王橋のほうからカブがやって来る。運転者はおかみさん。店の前に着けると、後部の出前機の荷台から小さい包みを取り出した。
カブはおかみさんが毎朝仕入れに使っているようなのだ。


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しかしよく見ると、出前機には「角上魚類」のレジ袋がいっぱいくくり付けてある。
角上で仕入れ? それじゃ採算合わないだろう。
たとえば以前、ほかのお客さんの焼き魚定食600円で30cmクラスのイサキが出てきたのを、(市場の卸で仕入れるにしても)あれじゃ合わないだろう… と眺めていた。それが角上となると…。


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この記事を書くにあたり、念のため「角上魚類 小平店」に調査に行ってきました。
以前見た焼き魚と同じくらいのサイズのイサキがたくさん並んでる。ちょうど旬だから。
1尾650円。
600円の定食に、それはありえない。新たな謎が加わってしまった。


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本日、1時の入店でお客さんは年配女性1人。僕らのあとに年配男性と若い男性。
「今日の日替りはお刺し身で、ブリとイサキとアジのなめろうです」とおかみさん。
日替り定食600円としょうが焼定食600円を注文。


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店内の品書きは、外のものより微妙に品数が多い


こちらの常連さんたち、特に男性客は、おかみさんとあまり話さない。名前で呼ばれるくらい親密なのに、こちらから話しかけることはなく、一種異様な雰囲気が漂う。
なんだか高校生を見ているようだ。
中学・高校の男子って、母親と話したがらないじゃないですか。あんな感じ(笑)。
明らかに60過ぎてるおっさんも、態度は男子高校生。


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常連が押し黙ってるから、非常連の僕らはおかみさんに話しかけることもできない。
聞きたいことも聞けず、いつまでも謎のままなのだ。


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これで600円!!


まずお新香(キュウリの浅漬け)と小鉢2種(コーン入りコールスロー、小アジの南蛮漬け)。
みそ汁は大根と新じゃが。


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しょうが焼きにも上と同じ副菜が付いて、やっぱリ600円!!


しょうが焼きは大きめの豚ロース肉が3枚。たれにじっくり漬け込んであるようで、しっとり軟らかいのはおろしタマネギ効果かな? 甘め濃いめの味でご飯が進む。

刺し身は鮮度抜群。ブリもイサキも一切れが大きく厚みがある。なめろうはねっとりした甘味のあるみそであえてあり、ショウガが効いてとても上品な仕上がり。

この刺し身を見ても、仕入れの謎は深まるばかりだ。


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「おかわりしてくださいね」
おかみさんの声に、高校生のように照れくさそうに茶わんを差し出す。


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[DATA]
富寿司
東京都東村山市本町4-13-94



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https://www.youtube.com/watch?v=cm2YyVZBL8U



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◆ 猫写真はこちら


毎週木曜はすしの日 【富寿司】

2017.08.10

 東村山本町のすし店「富寿司」に初めて入ったのは去年の暮のこと。まだ1年もたっていない新米客だが、その初回の印象があまりに強烈で、いまだによく覚えている。
そのときのことを少し書いておこうと思う。

その日は長女が休みだったので外で昼ごはんにしようと、特に店を決めるでもなく自転車で久米川駅方面に向かった。すると久米川の手前、空堀川沿いのすし屋の入り口に暖簾が掛かっている。その店、すなわち富寿司は、いまでこそオープンにランチ営業を続けているが、そのころは暖簾を見ることも少なかったので、僕は不意に興味を覚えた。
「ここ、やってるみたいよ」と水を向けると、「私もこの店、ずっと気になってた」と長女。
これはもう入るしかないということに。


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思ったより狭い店内は、右にカウンター5席、左に小上がり2卓。カウンターの向こうには、店構えから想像されるよりもいくぶん若いおかみさん。いきなり不思議なことを言う。
「今日はおすしの日ですけど、よろしいですか?」
すし屋なんだから“すしの日”もなにも… と思ったが、たしかにこの店は暖簾はめったに出ないが表にランチメニューの張り紙がしてあって、それはすしではなく焼き魚やしょうが焼きの定食である。つまりおかみさんの言葉は、本日のランチは定食ではなくすしである、と。すししか出せないがそれでよいか? ということを聞いているのである。
僕はすし屋に入ったらまずすしを食べたいという人間なので、そこは躊躇なく「お願いします」と返答する。


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2017.02.07 日替り定食(お刺身)[左]  2017.04.12 定食の焼き魚(鮭の粕漬け)とのしょうが焼[右]


さっそく小鉢が出てきた。それも2つ。自家製コロッケとリンゴ入りサラダ。
続いておかみさんはカウンター席の僕らの目の前で、バットに並んだ柵からすしだねを切り出し始めた。このときになって初めて、この人がにぎるんだ、と気がついた。そういえばほかに店の人の気配はない。
その素朴な突き出しといい、どこかチャーミングなすし職人といい、何かと予想の上をいく展開に、僕はすっかりうれしくなってしまっていた。


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2017.08.10 にぎりすし


しかし気になることが一つ。
お店に入って「すしの日です」「お願いします」のほかに言葉を交わした覚えがない。つまり、すしとはどういう種類のすしで、どれくらいの量で、いかほどのお値段であるのか、いっさい知らされていないのである。
おかみさんが目の前で、僕らのものと思われる、まあ明らかににぎりずしをこしらえている間、僕は壁やテーブルの上なんかをそれとなく探ってみた。しかし、定食の2枚の張り紙以外に何の情報も得られない。
考えてみればここはすし屋だ。怖いといえば相当怖い状況なんじゃないだろうか…。

ネタケース越しににぎりずしが提供される。量は多くないが、ネタはどれも新鮮そのもの。
僕はもう、高くても1500円、2人で3000円くらいだろうと腹をくくっていた。このいろいろ面白い体験をさせてもらって3000円なら安いものだと開き直って、穏やかな気持ちですしを堪能した。
食べ終わるころ、「よかったら食べてください」とおかみさんがブリを1貫ずつ追加してくれた。「ブリのおいしい季節になりましたねー」と。見ると皮付きの柵から1枚ずつ切り出している。おいしいはずだ。


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問題のお会計。
「1200円です」とおかみさん。
実は僕はカウンターの向こう端に座っていた常連客がいましがた出ていくのをこっそりのぞいていて、1000円札を1枚置いてそのへんに散らばっている釣り銭を何枚か回収するセルフ式の会計の様子から、1000円しないんだ、と当たりをつけていた。
だから1人600円と自然に受け止めたが(それにしても安い!)、長女は別に高いと感じることもなく当然のように1人1200円だと思った、とあとで言っていた。

「すしの日っていうのは曜日か何かで決まってるんですか?」と帰りしなに聞いてみた。毎週木曜日がすしの日で、それ以外は定食を出しているとのこと。
「ご飯を2種類用意するのってけっこう大変なの」とおかみさん。「だから1週間に1回だけ、ご飯は全部すし飯にするんですよ」


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それから8カ月近くたった本日8月10日、初回以来2度目となるすしの日での来店となった。妻はずっと来たがっていたのだが、木曜に休みをとるのが難しく、お盆休み期間でようやく実現した次第。
やはりネタはどれも新鮮で、僕の苦手なサーモンもおいしくいただいた。ブリや中トロまで入って、やっぱり600円。
途中おかみさんは、にぎりのネタのイカをさばいて出たものと言ってエンペラのにぎりをサービスで出してくれた。両面に細かく飾り包丁を入れてあるから食べやすく、鮮度がいいのでエンペラでもとてもおいしい。


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この店はランチタイムの営業時間も不規則だが、夜はもっと謎である。明かりがついているのを見ることはあるが、暖簾が掛かることはない。
この昭和がそのままスライドしてきたようなすし屋で夏の夕方に一杯、なんてこたえられないだろうなと思うのだが。


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[DATA]
富寿司
東京都東村山市本町4-13-94



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Jane Birkin
『Quoi』




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桜吹雪の午後1時 【富寿司】

2017.04.12

 僕らのあとから若い男性客が入ってきてカウンター席に座った。お茶か麦茶かと聞かれ、お茶と申請。必要手続きは以上で終了したらしい。あとは黙って座ってる。
カウンターの向こうではおかみさんがせっせと手を動かしている。ときどきテレビに反応して笑ったり何かつぶやいたりしている。
程なく若者の前に黙って食事が提供される。彼は特にうれしそうでもなく、少しめんどくさそうに食べ始める。
「自宅かよ!」(笑)と思いました。「男子か!」


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ここは客ごとに食べるものがだいたい決まっているようで、誰か入ってきたらおかみさんは黙って調理に取りかかることが多い(「人情おかみのおせっかい定食」参照)。まあ、めんどくさいことを言う客はいないということなんだが。
僕らはまだ一見とたいして変わらない身の上なので、注文を聞いてもらえる。
僕は直近2回、妻と次女が目の前で食べていておいしそうだったしょうが焼定食600円に。妻は焼き魚定食(鮭の粕漬け)600円。

まず小鉢2つ(揚げ餃子、ゆで卵入りサラダ)とお新香(かぶの浅漬け)が提供される。それからメイン2皿が同時にやって来て、ご飯、みそ汁(大根と油揚げ)も到着。
これ、全部そろうとたいへん豪華なのである。いつも思うのだが、2人合わせて1200円の食事にはとても見えない。


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しょうが焼は厚め・大きめの肉がとても軟らかく調理してあり、しょうがたっぷり、甘めの味付けでご飯が進む。ほかに揚げ餃子が2個もあるんだから、あっという間にご飯がなくなってしまう。
ここはご飯茶わんが小さい。どんどんおかわりしてくださいというスタンスなんだが、おじさんはそういうのがちょっと苦手だ。しかもおかみさんは洗い物か何かで奥の調理場に入ったきり姿をみせなくなってしまった。
どうしよう、と迷っていると、先の若者が「すいませーん、ご飯ください」と奥に呼びかけた。男子もやるときはやるのだ。おじさんも便乗しておかわりしてもらった。
おかげで思い残すことなく満腹・大満足の食事となった。


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おかみさんが暖簾をしまいに戸を開けると突風に桜吹雪が舞った。
「わー、舞台の演出みたい」と妻。
「暖簾は掛けないでおきましょうね」と、おかみさんはしまった暖簾を戸の内側に掛けずに外がよく見えるようにしてくれた。
青空に映える散り際の桜が僕の位置から透かし見えるのだった。


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[DATA]
富寿司
東京都東村山市本町4-13-94



                                        

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栄町という東村山の中心部に奇跡的に残るニリンソウの群生地


人情おかみのおせっかい定食 【富寿司】

2017.02.07

 妻が風邪をひいて会社を休んだ。昼ごろまでにはだいぶよくなり、せっかくの平日休みだからかーちゃんが入ったことのない店に行こうと、年末以来わが家でちょっとした話題になっている富寿司へ。

ただし、ここは行ってみるまでやっているかどうかわからない。
遠目に見ると暖簾が出ていない。休みかぁ…。でも近づくと窓枠に挟んであるプレートは「営業中」。
この日は強風が吹き荒れていたため暖簾は店内に掛けたままのようだ。

もっとも「準備中」のときでも、躊躇なしに入っていく客がいたり、明らかにいっぱい人が入っているらしい状況が外に漏れ伝わったりと、ここのシステムはいまだに謎である。たとえば出前用のカブを外に出しているのが常連向けの入店可のサインなんじゃないか、とかわしらはあれこれ推理している。


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「日替りはお刺身です」と、1人で切り盛りするおかみさん。僕は日替り、妻はしょうが焼をオーダー。

まず小鉢2点(ブリ大根、ひじきの煮物)とお新香(白菜漬け)が提供される。
バタンバタンと雨戸を鳴らして風が吹いている。「この時期、こういう風が吹くのよ」とおかみさん。「恩多のほうの空が茶色く煙ってることがあるよね」。
そうなのだ。このあたりの土質は粒子が細かく町中すっぽり煙霧に覆われ、家の中がざらざらになる。わしはこれをバカ風と呼んでいる。

日替り定食のお刺身は、ブリ3切れ、スミイカ2切れにアジのなめろう。
ブリは噛み切れないほどの分厚さで、やはり肉厚の高級イカ、アジともに鮮度抜群でうれしくなる。これにご飯、白菜とエノキのみそ汁、小鉢2、お新香付きで、驚愕の600円!
このあとさらにサービス小鉢のイカゲソのボイルまでいただいた。僕のお刺身のスミイカをさばいて出たゲソとのこと。以前も「すしの日」にブリ1貫サービスで追加してくれた。

しょうが焼定食は厚めの豚ロース肉4枚。ほか副菜方面は日替り定食と一緒で、こちらも破格の600円。


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自分たちのあとに初老の男性客がやって来て、カウンターの端に黙って座っている。
「〇〇さん、焼き魚好きでしょう。いまイサキ焼いてるから」
この店は「焼こうか?」ではなくいきなり「焼いてるから」である。賄いつきの下宿屋みたいだ。
このイサキがまた型がいい。それでやっぱり600円。

毎週木曜日がすしの日で、それ以外は定食を出している。
以前その理由を聞いたら、「ご飯を2種類用意するのって案外大変なのよ」。だから1週間に1回だけすし飯にしているそうだ。
にぎりもちらしもやはり600円で、定食セットと同じ副菜が付く。

いまや貴重な昭和の人情すし屋。次回はぜひすしの日に来ようと思う。


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[DATA]
富寿司
東京都東村山市本町4-13-94


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