半世紀の時のかなたに 【栄華】
2017.06.19
所沢のイオンの北、ファルマン通り交差点近くのとんかつ屋「菊富」の角を入ってすぐ左手。

こちら「栄華」はもう10年以上前から気にかかっていた店だが、当時すでにそれで営業していることに衝撃を受けるほどインパクトのある店構えだった。ときどき店主が出たり入ったり、出前から戻ってきたりする姿を見かけてはいたので、こう見えてもそれなりに活気はありそうだとも思っていた。
まあ、入るのに相当勇気が要ることに変わりはないが。

本日は暑い日で入り口が全開だったので、暖簾のだいぶ手前から店内でこちら向きに座っている店主夫妻と目が合ってしまい、引くに引けず吸い込まれるように敷居をまたぐ。
ご主人は驚いたような顔でずっとこっちを見てる。よっぽど一見客が珍しいらしく、やっちまったかも… との思いがよぎったが、奥さんのにこやかな対応に救われる。

お二人が表を向いて座っていたのは、入り口あたりの天井付近に据え付けてあるテレビで朝ドラの再放送を見ていたから。
最初入ってすぐ右のテーブル席に奥向きに座ったが、奥さんと向き合い続けるのに耐えられそうになく、僕も朝ドラを見るふりをして反対側に座り直す。
ラーメン350円を注文。
お湯を沸かすところから始めてるんじゃないのか? と思えるほど、ラーメン1杯作るにしてはずいぶんいろいろな作業が行われている気配。時間もかかっている。
なぜか、朝ドラの途中でおじゃまして悪いことしたな、という気持ちになる。

この路地は人通りは少なくない。
僕は全開の入り口際に通りに面して座っていて、表からよく見えていると思うのだが、誰もこちらを見向きもしない。
時空のひずみという透明の壁に遮られているかのようだ。

ラーメンは、小ぶりなどんぶりに具がバランスよく配置され、なかなかおいしそう。
透き通ったスープは、だしはしっかりとれているが雑味はなく、すっきりした味わい。
麺はかなり細めのストレート。やわらかチャーシューとメンマは濃いめの味付け。具はほかに小松菜、ナルト、ネギ。
350円とは思えない充実の内容。量も思ったほど少なくない。

途中、ご主人が岡持ちを提げて出前に出かける。僕が入ってから注文が来た気配はないので、やっぱり朝ドラを見終わってからぼちぼち作って届けようとしてたんじゃないのかなぁ…?

お勘定のときに何げなく奥さんに声をかけた。
「出前、忙しいんですか?」
「いやー、最近はさっぱりですね」とのお返事。
「でもマンションいっぱいできたし」
「まったくありませんねー。お見えになることもないし、出前もいっさい」
「そういうもんなんですかね…。なんかもったいないな」
最近は近場の人よりもむしろ遠くからわざわざ来る客のほうが多いくらいなのだそうだ。あと近いといえば近い早稲田の所沢キャンパスや日大芸術学部の学生がちょくちょく来るとのこと。日大の学生に頼まれて、店内で映画撮影したこともあるとか。
出前のほうは、核家族化・少子化の影響もあって、注文が少量になってしまうからと、頼むほうが遠慮するようになったという。
「昔は子どもが多かったから店にも来てくれたし、出前も出たんですけどね。その子どもたちが大きくなってからはねぇ…」

このあたりで僕は「これは大変なことになってしまったかも…」と思い始めているんだが、この奥さん、ものすごいおしゃべり好きで止まらない。
ご夫妻は九州福岡出身で、同郷同士のお見合いで。お店は50年以上やってるけど、自分が嫁いでからはそんなにはたっていない、と。
そのうち、妹さんの家族が先週ディズニーリゾートに遊びに来ていたという話に横滑り。滞在中の食事代で〇〇万円飛んだ、と。「ミラコスタのレストランはすごかったけど、姪たちにはその価値がわからなかったみたい」

結局、立ち話時間、23分。いやー、まいりました(笑)。
なんとか隙を見つけて「また寄らせてもらいます」と辞去したのだが、奥さんは足が悪いのに表まで見送ってくれた。いろいろ面白いお話を聞かせてくださってありがとうございました。
そのままぶらぶら川のほうに下っていったら、ご主人のカブと擦れ違った。もう少しおじゃましていたらご主人のお話も聞けたかな、とも思ったが、下手をすれば餃子にビールで腰を据えて、なんてことになりかねなかったかもと、ブルッと身震いした。

[DATA]
栄華
埼玉県所沢市御幸町2-15
[Today's recommendation]

https://youtu.be/37jJI0QQR_s
所沢のイオンの北、ファルマン通り交差点近くのとんかつ屋「菊富」の角を入ってすぐ左手。

こちら「栄華」はもう10年以上前から気にかかっていた店だが、当時すでにそれで営業していることに衝撃を受けるほどインパクトのある店構えだった。ときどき店主が出たり入ったり、出前から戻ってきたりする姿を見かけてはいたので、こう見えてもそれなりに活気はありそうだとも思っていた。
まあ、入るのに相当勇気が要ることに変わりはないが。

本日は暑い日で入り口が全開だったので、暖簾のだいぶ手前から店内でこちら向きに座っている店主夫妻と目が合ってしまい、引くに引けず吸い込まれるように敷居をまたぐ。
ご主人は驚いたような顔でずっとこっちを見てる。よっぽど一見客が珍しいらしく、やっちまったかも… との思いがよぎったが、奥さんのにこやかな対応に救われる。

お二人が表を向いて座っていたのは、入り口あたりの天井付近に据え付けてあるテレビで朝ドラの再放送を見ていたから。
最初入ってすぐ右のテーブル席に奥向きに座ったが、奥さんと向き合い続けるのに耐えられそうになく、僕も朝ドラを見るふりをして反対側に座り直す。
ラーメン350円を注文。
![]() | ![]() |
お湯を沸かすところから始めてるんじゃないのか? と思えるほど、ラーメン1杯作るにしてはずいぶんいろいろな作業が行われている気配。時間もかかっている。
なぜか、朝ドラの途中でおじゃまして悪いことしたな、という気持ちになる。

この路地は人通りは少なくない。
僕は全開の入り口際に通りに面して座っていて、表からよく見えていると思うのだが、誰もこちらを見向きもしない。
時空のひずみという透明の壁に遮られているかのようだ。

ラーメンは、小ぶりなどんぶりに具がバランスよく配置され、なかなかおいしそう。
透き通ったスープは、だしはしっかりとれているが雑味はなく、すっきりした味わい。
麺はかなり細めのストレート。やわらかチャーシューとメンマは濃いめの味付け。具はほかに小松菜、ナルト、ネギ。
350円とは思えない充実の内容。量も思ったほど少なくない。

途中、ご主人が岡持ちを提げて出前に出かける。僕が入ってから注文が来た気配はないので、やっぱり朝ドラを見終わってからぼちぼち作って届けようとしてたんじゃないのかなぁ…?

お勘定のときに何げなく奥さんに声をかけた。
「出前、忙しいんですか?」
「いやー、最近はさっぱりですね」とのお返事。
「でもマンションいっぱいできたし」
「まったくありませんねー。お見えになることもないし、出前もいっさい」
「そういうもんなんですかね…。なんかもったいないな」
最近は近場の人よりもむしろ遠くからわざわざ来る客のほうが多いくらいなのだそうだ。あと近いといえば近い早稲田の所沢キャンパスや日大芸術学部の学生がちょくちょく来るとのこと。日大の学生に頼まれて、店内で映画撮影したこともあるとか。
出前のほうは、核家族化・少子化の影響もあって、注文が少量になってしまうからと、頼むほうが遠慮するようになったという。
「昔は子どもが多かったから店にも来てくれたし、出前も出たんですけどね。その子どもたちが大きくなってからはねぇ…」

このあたりで僕は「これは大変なことになってしまったかも…」と思い始めているんだが、この奥さん、ものすごいおしゃべり好きで止まらない。
ご夫妻は九州福岡出身で、同郷同士のお見合いで。お店は50年以上やってるけど、自分が嫁いでからはそんなにはたっていない、と。
そのうち、妹さんの家族が先週ディズニーリゾートに遊びに来ていたという話に横滑り。滞在中の食事代で〇〇万円飛んだ、と。「ミラコスタのレストランはすごかったけど、姪たちにはその価値がわからなかったみたい」

結局、立ち話時間、23分。いやー、まいりました(笑)。
なんとか隙を見つけて「また寄らせてもらいます」と辞去したのだが、奥さんは足が悪いのに表まで見送ってくれた。いろいろ面白いお話を聞かせてくださってありがとうございました。
そのままぶらぶら川のほうに下っていったら、ご主人のカブと擦れ違った。もう少しおじゃましていたらご主人のお話も聞けたかな、とも思ったが、下手をすれば餃子にビールで腰を据えて、なんてことになりかねなかったかもと、ブルッと身震いした。

[DATA]
栄華
埼玉県所沢市御幸町2-15
[Today's recommendation]

https://youtu.be/37jJI0QQR_s