本格手打ちから大衆路線まで、懐深いそば屋 【浅野屋】
2017.11.22
東大和の裏道を走っていたら、そばが食べたくなった。あったかい天ぷらそば。
午前中は天気がよかったが、このあと下り坂とのことで、早くも曇って肌寒い。
駅前にちょっと気になるそば屋があったのを思い出した。

「浅野屋」は、そば屋としての立ち位置が面白い。
そば屋は大きく2タイプに分かれると思う。
一つは僕が“街そば”と呼ぶ、まあ普通の街のそば屋。そばはそば粉30%の機械製麺で、そばより定食や丼物、カレーなどのほうがよく売れる、というような。
もう一つは、ツレが“ジャズそば”と呼ぶ、手打ちの二八や十割そばを出す店。地酒・銘酒を取りそろえ、いわゆる蕎麦前も充実し、BGMにはジャズ。
浅野屋はこの両方の顔を持つという印象がある。
駐車場には“常陸秋そば”ののぼりが立つ。
僕はそばには詳しくないが、なぜか茨城はそばどころとしての格が高いイメージがある。調べてみたら生産量全国2位。
その茨城のブランド品種を提供するという。

一方、店頭のショーケースはカレー南うどん、とろろせいろそば、ミニ天丼重… と、街そば的。もちろん天ぷらそばもある。
常陸秋そばも気になるが、いまの気分は、フツーの、なんてことのない天ぷらそば。

1時前で先客はなし。ちょっと意外な感じ。
入り口のあたりの隅っこのテーブルがいいかな、と思ったら、
「こっちこっち」と奥でお店のおかあさんが手招きする。「いちばんあったかいとこ座って」
石油ストーブの真ん前のカウンター席に座らされる。


「今日は寒いから、さっきのお客さんたち、こういうの食べてたわよ」と、煮込鍋うどんなどをお勧めされる。

ものすごくメニューが多い。煮込み関係も魅力的だし、目の前の短冊ではあら挽き手打ちせいろそば、常陸新手打ちせいろそばの誘惑。“名物創作・薬草てもみそば”って何だろう?
しかしここは予定どおり天ぷらそば。セットもあるようだが単品で。
内装は民芸調。BGMは野鳥の鳴き声。ミソサザイのさえずりの向こうにホトトギスの声が聞こえ、季節感的にどうかと思うが癒しの効果はあると思う。
厨房は奥まっていてよく見えないが、忙しそうに動き回る人影からは、職人さんは複数いるかな? やはりというか、街そばの顔のほうでは出前需要が多そうだ。

さて、入った瞬間に友だちみたいになってしまってるおかあさん、奥に引っ込んで姿が見えない。お冷やかお茶がほしいのだが、忘れられたままである。
天ぷらそばに意外に時間がかかっている。
僕はサンコウチョウの声などを聴きながらボーっと待っている。

ようやくできあがった天ぷらそばを運んできたおかあさん、「あ、お茶々が来てないね」と。
「先におそば食べててね」とお茶々を入れに行く。
天ぷらは、大きく太い海老、かぼちゃ、はす、にんじん、ピーマン。
意外にも小鉢付きで、なぜかクリームシチュー。
それと自家製漬物、かぶ、人参、大根の葉。かぶがすごくおいしい。
これは単品ではないのでは? と不安になるほどの充実の内容である。

お支払いで、「950マンエーン」と、おかあさんはあっけらかんと。
「でもお相撲、終わんないねー。長引きそうだよね」と、唐突に。
「え、…稀勢の里?」
「それもそうだけど、日馬富士」
「ああ、そっち…。でもあれ、T親方おかしいでしょ」
「だよねー。T乃花、協会の理事にまでなってあんなことやってんだからさ。似た者どうし集まったんだよ、親方も弟子も」
「そう。だいたいあの人、前からおかしかったでしょ」
「そうそう。あの一家、みんな変だよねー」

やばい… 盛り上がってきた。
僕の数少ない特殊能力である“おばちゃんと下世話なネタで盛り上がれるアビリティ”が発動してしまってる。
以前それで所沢の中華屋のおばちゃんと30分近く立ち話をしてしまった。
話しながらもじりじりと出口のほうににじり寄る。おかあさんもにじりにじりと、間合いを詰めてくる。
が、きりのいいところでガラッと引き戸を開け、
「気をつけてね。ありがと、ありがと」と送り出してくれる。
入るときよりいい気分で出られるというのは、何か得したようでうれしいものである。

[DATA]
浅野屋
東京都小平市小川町1-73-3
[Today's recommendation]

https://youtu.be/pqashW66D7o


◆ 猫写真はこちら ◆
東大和の裏道を走っていたら、そばが食べたくなった。あったかい天ぷらそば。
午前中は天気がよかったが、このあと下り坂とのことで、早くも曇って肌寒い。
駅前にちょっと気になるそば屋があったのを思い出した。

「浅野屋」は、そば屋としての立ち位置が面白い。
そば屋は大きく2タイプに分かれると思う。
一つは僕が“街そば”と呼ぶ、まあ普通の街のそば屋。そばはそば粉30%の機械製麺で、そばより定食や丼物、カレーなどのほうがよく売れる、というような。
もう一つは、ツレが“ジャズそば”と呼ぶ、手打ちの二八や十割そばを出す店。地酒・銘酒を取りそろえ、いわゆる蕎麦前も充実し、BGMにはジャズ。
浅野屋はこの両方の顔を持つという印象がある。
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駐車場には“常陸秋そば”ののぼりが立つ。
僕はそばには詳しくないが、なぜか茨城はそばどころとしての格が高いイメージがある。調べてみたら生産量全国2位。
その茨城のブランド品種を提供するという。

一方、店頭のショーケースはカレー南うどん、とろろせいろそば、ミニ天丼重… と、街そば的。もちろん天ぷらそばもある。
常陸秋そばも気になるが、いまの気分は、フツーの、なんてことのない天ぷらそば。

1時前で先客はなし。ちょっと意外な感じ。
入り口のあたりの隅っこのテーブルがいいかな、と思ったら、
「こっちこっち」と奥でお店のおかあさんが手招きする。「いちばんあったかいとこ座って」
石油ストーブの真ん前のカウンター席に座らされる。


「今日は寒いから、さっきのお客さんたち、こういうの食べてたわよ」と、煮込鍋うどんなどをお勧めされる。

ものすごくメニューが多い。煮込み関係も魅力的だし、目の前の短冊ではあら挽き手打ちせいろそば、常陸新手打ちせいろそばの誘惑。“名物創作・薬草てもみそば”って何だろう?
しかしここは予定どおり天ぷらそば。セットもあるようだが単品で。
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内装は民芸調。BGMは野鳥の鳴き声。ミソサザイのさえずりの向こうにホトトギスの声が聞こえ、季節感的にどうかと思うが癒しの効果はあると思う。
厨房は奥まっていてよく見えないが、忙しそうに動き回る人影からは、職人さんは複数いるかな? やはりというか、街そばの顔のほうでは出前需要が多そうだ。

さて、入った瞬間に友だちみたいになってしまってるおかあさん、奥に引っ込んで姿が見えない。お冷やかお茶がほしいのだが、忘れられたままである。
天ぷらそばに意外に時間がかかっている。
僕はサンコウチョウの声などを聴きながらボーっと待っている。

ようやくできあがった天ぷらそばを運んできたおかあさん、「あ、お茶々が来てないね」と。
「先におそば食べててね」とお茶々を入れに行く。
天ぷらは、大きく太い海老、かぼちゃ、はす、にんじん、ピーマン。
意外にも小鉢付きで、なぜかクリームシチュー。
それと自家製漬物、かぶ、人参、大根の葉。かぶがすごくおいしい。
これは単品ではないのでは? と不安になるほどの充実の内容である。

お支払いで、「950マンエーン」と、おかあさんはあっけらかんと。
「でもお相撲、終わんないねー。長引きそうだよね」と、唐突に。
「え、…稀勢の里?」
「それもそうだけど、日馬富士」
「ああ、そっち…。でもあれ、T親方おかしいでしょ」
「だよねー。T乃花、協会の理事にまでなってあんなことやってんだからさ。似た者どうし集まったんだよ、親方も弟子も」
「そう。だいたいあの人、前からおかしかったでしょ」
「そうそう。あの一家、みんな変だよねー」

やばい… 盛り上がってきた。
僕の数少ない特殊能力である“おばちゃんと下世話なネタで盛り上がれるアビリティ”が発動してしまってる。
以前それで所沢の中華屋のおばちゃんと30分近く立ち話をしてしまった。
話しながらもじりじりと出口のほうににじり寄る。おかあさんもにじりにじりと、間合いを詰めてくる。
が、きりのいいところでガラッと引き戸を開け、
「気をつけてね。ありがと、ありがと」と送り出してくれる。
入るときよりいい気分で出られるというのは、何か得したようでうれしいものである。

[DATA]
浅野屋
東京都小平市小川町1-73-3
[Today's recommendation]

https://youtu.be/pqashW66D7o


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