豚汁の遠い記憶 【とんかつ美とん】
2017.11.14
モノによって買う店が決まっているというのはよくあることだと思う。
僕の場合、たとえばクリアクリーンやシーブリーズは西友、コピー用紙はイトーヨーカドー、そば焼酎はビッグA、ハイネケンは西友… という感じ。
自転車で1時間ほどかかる吉祥寺まで買いに行くものがある。
リップクリーム、制汗剤、修正液。
なぜわざわざ吉祥寺まで出かけるかというと、安い店があるから。
しかし上記品目はいずれも500円以内で買えるわけで、安いといってもせいぜい数十円。わざわざ1時間自転車こいで行くような話だろうか?
しかも他店との大規模比較調査をしたことはなく、過去の経験から吉祥寺のサンドラッグとロヂャースは安かった、ような気がする…、と、根拠はイメージのみである。
まあ、僕がわざわざとる行動にはいつも運動不足解消の狙いが若干込められてはいる。

久々に時間に余裕ができ、上記3品が同時に切れそうになっているので吉祥寺に。
まず買い物を済ませ(サンドラッグ安くなくなってるし…(笑))、お昼ごはんはファミリープラザ地下の老舗とんかつ店「美とん」へ。
ファミリープラザとかいうより、昔の人には三浦屋地下といったほうがいまだに通りはいい。

この店は僕が吉祥寺に住んでいた35年前にはすでに存在した。入ったこともある。
「美とん」と書いて「びとん」と読む。
たぶんVuittonとつづる。
カタカナに戻すとヴィトンになる。
とんかつ屋で“ウ濁“というのはなかなかないと思う。
時代を感じるなぁ…。
当時は高いイメージで、入ったといってもせいぜい2~3回。
とんかつといえばもっぱら庶民派価格の伊勢丹地下「一力」を使っていた。一力は長く続けていたが、伊勢丹の末期、最後のあがきで地下飲食店街を高級路線にリニューアルみたいなことになり、たしかそのとき退去している。
もう一軒、入ったことはないが名店と言われた東急裏の「とんかつ扇」もそのころ閉店している。最近では人気店「とんかつあおば」が7月に閉店…。
吉祥寺からとんかつ屋が次々と消えていくなか、いまも残っているのは「美とん」くらいじゃないだろうか。

この10年ほど年に1~2回のペースで入っていたような感覚だったが、考えてみると2年ぶりぐらい。
2時近くにして5卓あるテーブル席はすべて埋まっている。9席のL字カウンターはまばらに3~4人。奥から2番目の席に座る。
注文はいつも同じでカツランチ800円。

僕の目の前にフライヤーがあり、2代目とおぼしき若めの職人さんが黙々と揚げ物をしている。
とんかつは1枚1枚丁寧に衣づけをする。肉に楊枝の取っ手を付け、粉・卵・粉・卵・粉・卵、最後に両手で優しく包み込むようにパン粉をまとわせ、楊枝を外して油に投入。
できあがる直前に小声で合図が送られ、奥で女の人がご飯と豚汁を用意する。

作業台には注文分の皿にキャベツやパセリをのせて準備してある。
皿・皿・皿・皿・皿・ステンレスプレート(←わしの)
せっかくのランチサービスであるが、カツランチはあまり出ない印象がある。それは吉祥寺という土地柄もあるが、老舗ならではの客の年齢層の高さも関係していると思う。
安いものは頼まない。
学校給食じゃないんだからペコペコのプレートで出されるのはちょっと、という蔑み光線が飛び交ってる。
陶器の皿にのるメニューはすべて1000円超え。っていうか、1000円切るのはランチのみ。
下層階級の僕はじっと耐えるしかないのである。

右隣に座った男性、当たり前のように「カツランチ」と。
このキタナめのおっちゃんに連帯感を覚えたのは言うまでもない。
そのあとも、おばちゃん、おっちゃんと立て続けにカツランチ。仲間がどんどん増えていくのであった。

カツランチのとんかつは、少し小さめではあるが厚みはしっかりある。脂身の甘みが上品な、うま味の濃いロース肉。衣はきめが細かくしっかりしている。外れやすいのがやや難点。
ランチで省略されるのは、お新香、レモン、パセリ。個人的にはパセリがないのが寂しい。
しかしここの売りである豚汁はランチにも付く。

若いころに入って強く印象に残っているのが豚汁。大きいお椀で出されていた。
それはオプションだったかもしれないが、とにかく具だくさんでおいしい豚汁をいただいた記憶がある。
いまもお椀は、あれほどではないが大きめ。たっぷりの具は大根、人参、豚肉、薬味にネギとシソ。シンプルだが深い味わいの一杯。

ご主人が豚汁用に肉の脂の多い部位を細かく刻んでいる。
1日数回、何十年も繰り返してきた仕事だろう。
このまま吉祥寺のとんかつの灯を守り続けてくれることを願う。

[DATA]
とんかつ美とん
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-9-10 ファミリープラザビルB1
[Today's recommendation]

https://youtu.be/GEi498wzsCE


◆ 猫写真はこちら ◆
モノによって買う店が決まっているというのはよくあることだと思う。
僕の場合、たとえばクリアクリーンやシーブリーズは西友、コピー用紙はイトーヨーカドー、そば焼酎はビッグA、ハイネケンは西友… という感じ。
自転車で1時間ほどかかる吉祥寺まで買いに行くものがある。
リップクリーム、制汗剤、修正液。
なぜわざわざ吉祥寺まで出かけるかというと、安い店があるから。
しかし上記品目はいずれも500円以内で買えるわけで、安いといってもせいぜい数十円。わざわざ1時間自転車こいで行くような話だろうか?
しかも他店との大規模比較調査をしたことはなく、過去の経験から吉祥寺のサンドラッグとロヂャースは安かった、ような気がする…、と、根拠はイメージのみである。
まあ、僕がわざわざとる行動にはいつも運動不足解消の狙いが若干込められてはいる。

久々に時間に余裕ができ、上記3品が同時に切れそうになっているので吉祥寺に。
まず買い物を済ませ(サンドラッグ安くなくなってるし…(笑))、お昼ごはんはファミリープラザ地下の老舗とんかつ店「美とん」へ。
ファミリープラザとかいうより、昔の人には三浦屋地下といったほうがいまだに通りはいい。

この店は僕が吉祥寺に住んでいた35年前にはすでに存在した。入ったこともある。
「美とん」と書いて「びとん」と読む。
たぶんVuittonとつづる。
カタカナに戻すとヴィトンになる。
とんかつ屋で“ウ濁“というのはなかなかないと思う。
時代を感じるなぁ…。
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当時は高いイメージで、入ったといってもせいぜい2~3回。
とんかつといえばもっぱら庶民派価格の伊勢丹地下「一力」を使っていた。一力は長く続けていたが、伊勢丹の末期、最後のあがきで地下飲食店街を高級路線にリニューアルみたいなことになり、たしかそのとき退去している。
もう一軒、入ったことはないが名店と言われた東急裏の「とんかつ扇」もそのころ閉店している。最近では人気店「とんかつあおば」が7月に閉店…。
吉祥寺からとんかつ屋が次々と消えていくなか、いまも残っているのは「美とん」くらいじゃないだろうか。

この10年ほど年に1~2回のペースで入っていたような感覚だったが、考えてみると2年ぶりぐらい。
2時近くにして5卓あるテーブル席はすべて埋まっている。9席のL字カウンターはまばらに3~4人。奥から2番目の席に座る。
注文はいつも同じでカツランチ800円。

僕の目の前にフライヤーがあり、2代目とおぼしき若めの職人さんが黙々と揚げ物をしている。
とんかつは1枚1枚丁寧に衣づけをする。肉に楊枝の取っ手を付け、粉・卵・粉・卵・粉・卵、最後に両手で優しく包み込むようにパン粉をまとわせ、楊枝を外して油に投入。
できあがる直前に小声で合図が送られ、奥で女の人がご飯と豚汁を用意する。

作業台には注文分の皿にキャベツやパセリをのせて準備してある。
皿・皿・皿・皿・皿・ステンレスプレート(←わしの)
せっかくのランチサービスであるが、カツランチはあまり出ない印象がある。それは吉祥寺という土地柄もあるが、老舗ならではの客の年齢層の高さも関係していると思う。
安いものは頼まない。
学校給食じゃないんだからペコペコのプレートで出されるのはちょっと、という蔑み光線が飛び交ってる。
陶器の皿にのるメニューはすべて1000円超え。っていうか、1000円切るのはランチのみ。
下層階級の僕はじっと耐えるしかないのである。

右隣に座った男性、当たり前のように「カツランチ」と。
このキタナめのおっちゃんに連帯感を覚えたのは言うまでもない。
そのあとも、おばちゃん、おっちゃんと立て続けにカツランチ。仲間がどんどん増えていくのであった。

カツランチのとんかつは、少し小さめではあるが厚みはしっかりある。脂身の甘みが上品な、うま味の濃いロース肉。衣はきめが細かくしっかりしている。外れやすいのがやや難点。
ランチで省略されるのは、お新香、レモン、パセリ。個人的にはパセリがないのが寂しい。
しかしここの売りである豚汁はランチにも付く。

若いころに入って強く印象に残っているのが豚汁。大きいお椀で出されていた。
それはオプションだったかもしれないが、とにかく具だくさんでおいしい豚汁をいただいた記憶がある。
いまもお椀は、あれほどではないが大きめ。たっぷりの具は大根、人参、豚肉、薬味にネギとシソ。シンプルだが深い味わいの一杯。

ご主人が豚汁用に肉の脂の多い部位を細かく刻んでいる。
1日数回、何十年も繰り返してきた仕事だろう。
このまま吉祥寺のとんかつの灯を守り続けてくれることを願う。

[DATA]
とんかつ美とん
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-9-10 ファミリープラザビルB1
[Today's recommendation]

https://youtu.be/GEi498wzsCE


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