奇跡の人情食堂 【寿々木食堂】
2017.09.29
何か気がかりなことがあると行動力が落ちるというか、食事なんかを楽しもうという気が起きなくなることってありますよね…。
食事ものどを通らないというが、僕はのどを通らなくならないのでわからないけど、一般的にはこういう状態をそう表現するのかもしれない。自分の場合、食欲は落ちないが、行動力はガタ落ちする。
今日は午前中、仕事が非常にスムーズで、午後に時間ができたので、いろいろ用事もたまっていることだし昼は買い物がてら吉祥寺あたりまで行こうかと考えていた。しかし家を出る寸前に気がかりが発生して、たちまち行動が怪しくなる。
一応、吉祥寺に行こうという気はあるんだが、人出の多い街だから、それだけでもう気後れしている。行く前から街のパワーにのまれている状態。でも修正する気力もないので“そっち方面”には向かう。
滝山あたりを通って田無の街を抜け、普通だったら武蔵野大学のほうに上っていくところ、青梅街道に入る。次に考えられるのは東伏見交差点を右折して武蔵野中央公園方面に向かうルートだが、そこも直進。よっぽど吉祥寺に行きたくないらしい。

ただし、先に気が向かないだけでなく、ここまで来たなら確かめておきたいことがある。坂を上ったところにある「寿々木食堂」の動向だ。
絵に描いたような昭和レトロ食堂で、非常に気になるが一見には入りづらいオーラ全開、難易度S級という存在。よく通るルートからは外れるのでしばらく存在自体忘れていたが、今年6月にたまたま店の前を通り、以来ずっと心に引っかかっている。実際、その後3~4回も確認に行ったほど。
何回も行っているということは、確認できていないということだ。店の存続を。

東伏見坂上の坂(というのか?)を上る途中、さら地を見てドキドキする。もっと先だよな…?
坂を上りきったあたりで、スタンド看板の電飾がピカピカしてるのが見える。
あ、やってる…!

入り口には白い暖簾が掛かり、中には人けもある。ほんとにやってるんだ、よかったよかった、とそのまま通過。って、入らないんかい!
だって心の準備できてないんだもん(笑)。
入りづらいオーラは変わらないわけだし、実を言うともうやってないんだろうなと半ばあきらめていたというのもあって。
しかし考えてみると6月から今日で5回目として確率20%。営業日が少ないのにはそれなりの理由もあるだろうし、次いつこういう機会があるか。
東伏見四丁目の三差路でUターンしました。

2つある入り口のうち暖簾のかかっているほうを開ける。予想外にお客さんがいる。3人も。
カウンターのみの店内で、向こうのほうがすいているので狭い通路を移動。あっちから入ればよかったのね。
お客さんはみんな常連さんっぽい。

カウンターの中にはご高齢のおかあさんとその下の世代のおねえさん。おかあさんを「お母さん」と呼ぶんだから娘さんだと思うんだが、こちらのおかあさんは誰が呼んでも「お母さん」となるであろう正しい日本のおかあさんだ。それだけでは母娘の証拠とはならない。
おねえさんは柔らかい笑顔を絶やさず、とても感じがよい。おかあさんは凛としている。

「フライ終わっちゃったから焼肉か焼魚ね」とおかあさん。
見るとお品書きの札はほとんど裏返しで、いま掛かっているのは焼肉定食700円、焼魚定食700円のみ。左側の壁の黒板にはフライ定食600円と書いてあるが、これは終わっちゃったということらしい。焼肉定食を注文。
調理をするのは基本的におかあさんで、フライパンを操っている気配。仕事は早く、ものの数分で「焼肉上がったよ」の声。

おねえさんからカウンター越しに、まずメインの皿を渡される。
それから“定食”一式がお盆に載ってくる。ひじきの煮物、高野豆腐、たくあん漬け、みそ汁。

焼肉はしょうゆ主体の素朴な味付け。ちょっと焦げちゃってるのは愛嬌というもの。
煮物はもちろん、みそ汁のだしなんかも手作り感いっぱいで、季節的に自家製ってことはないと思うがたくあんさえもありがたみが違って感じる。

焼肉定食一式
途中、おねえさんから小鉢を渡される。
鳥肉の煮物で、サービスのようだ。軟らかく煮てあって、これも懐かしい味わい。

サービスその1
おかずが1品増えてご飯が足りなくなった。もとが少ないわけじゃないんだが、ご飯が進むおかずが並んでいるから。す
ると、あとに入ったお客さんが無言で空になったご飯茶わんを差し出している。おかわり自由だったのか…。

食べ終わってお支払いにおねえさんの包丁仕事が一段落するのを待っていると、「食べ終わっちゃったんですか? ちょっと待ってくださいね」と。デザートのナシをむいてくれているようだ。
「もうちょっと速くむければいいんだけど」と笑う。たしかにあまり器用そうじゃない手つき(笑)。

サービスその2
「いろいろありがとうございました」とおねえさんにあいさつして出ようとすると、今度はお母さんがカウンターの出口からぐるっと回ってやって来る。
「はい、おまけ」と缶飲料をくれた。三ツ矢サイダーって、手にするの40年ぶりぐらいかも。
店を出ると心の憂いは晴れていた。

サービスその3
何だろう、こういうのって。こういうのを求めて食堂めぐりをしている気がする。でもこれは、お金で買えないのはもちろん、いくら情報の扱いにたけていても簡単に得られるものではない。
それが人情という、必須アミノ酸のように生きるために不可欠でありながら自分で自分にはもたらすことのできないもの… のような気がする。

[DATA]
寿々木食堂
東京都西東京市東伏見4₋8
[Today's recommendation]

https://youtu.be/GLA7sanwnN8


何か気がかりなことがあると行動力が落ちるというか、食事なんかを楽しもうという気が起きなくなることってありますよね…。
食事ものどを通らないというが、僕はのどを通らなくならないのでわからないけど、一般的にはこういう状態をそう表現するのかもしれない。自分の場合、食欲は落ちないが、行動力はガタ落ちする。
今日は午前中、仕事が非常にスムーズで、午後に時間ができたので、いろいろ用事もたまっていることだし昼は買い物がてら吉祥寺あたりまで行こうかと考えていた。しかし家を出る寸前に気がかりが発生して、たちまち行動が怪しくなる。
一応、吉祥寺に行こうという気はあるんだが、人出の多い街だから、それだけでもう気後れしている。行く前から街のパワーにのまれている状態。でも修正する気力もないので“そっち方面”には向かう。
滝山あたりを通って田無の街を抜け、普通だったら武蔵野大学のほうに上っていくところ、青梅街道に入る。次に考えられるのは東伏見交差点を右折して武蔵野中央公園方面に向かうルートだが、そこも直進。よっぽど吉祥寺に行きたくないらしい。

ただし、先に気が向かないだけでなく、ここまで来たなら確かめておきたいことがある。坂を上ったところにある「寿々木食堂」の動向だ。
絵に描いたような昭和レトロ食堂で、非常に気になるが一見には入りづらいオーラ全開、難易度S級という存在。よく通るルートからは外れるのでしばらく存在自体忘れていたが、今年6月にたまたま店の前を通り、以来ずっと心に引っかかっている。実際、その後3~4回も確認に行ったほど。
何回も行っているということは、確認できていないということだ。店の存続を。

東伏見坂上の坂(というのか?)を上る途中、さら地を見てドキドキする。もっと先だよな…?
坂を上りきったあたりで、スタンド看板の電飾がピカピカしてるのが見える。
あ、やってる…!

入り口には白い暖簾が掛かり、中には人けもある。ほんとにやってるんだ、よかったよかった、とそのまま通過。って、入らないんかい!
だって心の準備できてないんだもん(笑)。
入りづらいオーラは変わらないわけだし、実を言うともうやってないんだろうなと半ばあきらめていたというのもあって。
しかし考えてみると6月から今日で5回目として確率20%。営業日が少ないのにはそれなりの理由もあるだろうし、次いつこういう機会があるか。
東伏見四丁目の三差路でUターンしました。

2つある入り口のうち暖簾のかかっているほうを開ける。予想外にお客さんがいる。3人も。
カウンターのみの店内で、向こうのほうがすいているので狭い通路を移動。あっちから入ればよかったのね。
お客さんはみんな常連さんっぽい。

カウンターの中にはご高齢のおかあさんとその下の世代のおねえさん。おかあさんを「お母さん」と呼ぶんだから娘さんだと思うんだが、こちらのおかあさんは誰が呼んでも「お母さん」となるであろう正しい日本のおかあさんだ。それだけでは母娘の証拠とはならない。
おねえさんは柔らかい笑顔を絶やさず、とても感じがよい。おかあさんは凛としている。

「フライ終わっちゃったから焼肉か焼魚ね」とおかあさん。
見るとお品書きの札はほとんど裏返しで、いま掛かっているのは焼肉定食700円、焼魚定食700円のみ。左側の壁の黒板にはフライ定食600円と書いてあるが、これは終わっちゃったということらしい。焼肉定食を注文。
調理をするのは基本的におかあさんで、フライパンを操っている気配。仕事は早く、ものの数分で「焼肉上がったよ」の声。

おねえさんからカウンター越しに、まずメインの皿を渡される。
それから“定食”一式がお盆に載ってくる。ひじきの煮物、高野豆腐、たくあん漬け、みそ汁。

焼肉はしょうゆ主体の素朴な味付け。ちょっと焦げちゃってるのは愛嬌というもの。
煮物はもちろん、みそ汁のだしなんかも手作り感いっぱいで、季節的に自家製ってことはないと思うがたくあんさえもありがたみが違って感じる。

焼肉定食一式
途中、おねえさんから小鉢を渡される。
鳥肉の煮物で、サービスのようだ。軟らかく煮てあって、これも懐かしい味わい。

サービスその1
おかずが1品増えてご飯が足りなくなった。もとが少ないわけじゃないんだが、ご飯が進むおかずが並んでいるから。す
ると、あとに入ったお客さんが無言で空になったご飯茶わんを差し出している。おかわり自由だったのか…。

食べ終わってお支払いにおねえさんの包丁仕事が一段落するのを待っていると、「食べ終わっちゃったんですか? ちょっと待ってくださいね」と。デザートのナシをむいてくれているようだ。
「もうちょっと速くむければいいんだけど」と笑う。たしかにあまり器用そうじゃない手つき(笑)。

サービスその2
「いろいろありがとうございました」とおねえさんにあいさつして出ようとすると、今度はお母さんがカウンターの出口からぐるっと回ってやって来る。
「はい、おまけ」と缶飲料をくれた。三ツ矢サイダーって、手にするの40年ぶりぐらいかも。
店を出ると心の憂いは晴れていた。

サービスその3
何だろう、こういうのって。こういうのを求めて食堂めぐりをしている気がする。でもこれは、お金で買えないのはもちろん、いくら情報の扱いにたけていても簡単に得られるものではない。
それが人情という、必須アミノ酸のように生きるために不可欠でありながら自分で自分にはもたらすことのできないもの… のような気がする。

[DATA]
寿々木食堂
東京都西東京市東伏見4₋8
[Today's recommendation]

https://youtu.be/GLA7sanwnN8

