洋食店への憧憬 【キャンディ】

2017.08.26

 学生街の洋食屋というのは古きよき時代を象徴するイメージの一つだと思う。
1970年代、平和な時代に豊かさが加わって食が多様化し、それまで手の届かない存在だった洋食が身近なものになっていった。学生街を中心に低価格なだけでなく様式的にもカジュアル路線の店が登場し、洋食の敷居を下げた。
洋食は、何でも吸収しようとしていた当時の若者にとって異文化に触れる機会だった。また、それ以前のデパート食堂の家族単位とは異なる個の利用シーンが、自由を謳歌する時代の空気に合致した。


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敷居が低くなったとはいえ、洋食屋は基本的にきれいでおしゃれなつくりであるから、当時の若者にとって憧れの存在には違いなかった。学生街で、当時のままの姿でいまに残る洋食屋に出会うことがある。そういうときに湧いてくるのは、やはり憧れの感情ではないだろうか。
当時、気後れして入れなかったけど、年を重ねたいまなら入れそうな気がする。憧れの先輩と同窓会で初めて会話する… 的な。


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武蔵野美術大学の近くの「キャンディ」は、まさに古きよき洋食屋の雰囲気をいまに伝える。バス通りを挟んですぐ前を流れる玉川上水の豊かな緑と、学生街の洗練が融合する街角に、隣の喫茶店「フランソワ」と一体となったかわいらしいたたずまい。
見た瞬間、胸を締め付けられるような甘酸っぱい感情がこみ上げる。

ただ、おしゃれだったであろう往時の面影は見て取れるが、時の流れには逆らえず、外観は相当くたびれている。しかしそれも味わいには違いない。


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ずっと気になる存在ではあったが、やはり入りづらい。若いころこのあたりの土地にはまったく縁がなかっただけに、いわばよそ者である。そこは開き直って“ムサビの卒業生のような顔をして”(笑)行ってみることに。

壁付の看板がいつの間にかなくなっていることもあって、やっているのかどうかいよいよわかりづらくなっているが、入り口のドアが半分開いているのでのぞいてみる。
「これ、壊れちゃってて」と、ご主人がエアコンを指さし苦笑。「2階は涼しくなってますからどうぞ」
2階は土足禁止のようなので階段の下で靴を脱いで下駄箱へ。


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2階はカーペット敷きの一間に小さい座卓が5脚。これが、1人暮らしを始めた学生が最初に買うような、実家には絶対ないようなしゃれたデザインのもの。女の子好きする白いテーブルがずらっと並んでいるから、僕の第一印象は“女子大生の雑魚寝部屋”(笑)。
ほかに、比較的最近張り替えたであろう壁紙やカーテンも白が基調、花瓶などの置き物やカーテンレール、シャンデリア風照明と、コンセプトはロココ調か何か。
たまたま客は僕らだけだったが、これで各テーブル女子大生で埋まっていたらと考えると、おじさん的には冷や汗ものである。


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注文は、カツカレー700円(僕)と生姜焼き[豚]定食800円(妻)。
カレーは小麦粉(もしくは業務用ルー)でとろみのついたタイプで、具はほとんど煮崩れている。かなり甘味が強く懐かしい味だ。カツは厚みがあって端のほうは噛みきれないほど筋張っていたりするが、僕はそういうのは気にならない。学生相手の大らかさというか。
生姜焼きは黒っぽいソースで、しょうゆベースかどうか判然とせず、ショウガの存在もほとんど感じられないという不思議な味。甘辛でご飯によく合うし、5~6枚とボリュームがすごい。


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この店は、もともとそうなのか途中でそう変わっていったのかはわからないが、食事はかなりガッツリ系である。いまはおしゃれ要素も薄らいでガッツリが前面に出ている感はあるが、そういう変遷も若者文化的ではある。
ただ、1階は通過しただけなので、この店の本質には触れられていないと思う。2階は普段、常連学生しか入れなさそうな気配なのでそれはそれで貴重な体験ではあったが、1階の濃密なレトロ空間に浸るという課題は、そっくりそのまま残っている。


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[DATA]
キャンディ
東京都小平市小川町1-741-105



[Today's recommendation]

Adieu Jolie Candy
Jean-François Michael
『Adieu Jolie Candy』




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