悠久のにんにくかつ 【とんかつ 和光】
2017.05.16
清瀬の「枡壱」が閉店してしまってとんかつ分野に隙間感が漂っているので、なんとか補充したい。そこで、ずっと気になっていながらもう一歩の勇気が出ず入りそびれていた「とんかつ和光」に意を決して挑む。
「たのもう!!」
右の引き戸を開けると、雑誌や書類がうず高く積まれたいすに進路を阻まれる。あらためて左から入店。
出だしからずっこけてる。
「遅いですね」と、藪から棒にお店のおかあさん。
「はい?」
「1時過ぎてるね」
ああ、そういうことか。
なんだかいきなりペースを握られてる感じ。

このおかあさんはとにかく話し好きのようで、次々にいろんなことを言ってくるから腰を下ろす隙がない。テレビのチャンネルを切り替えながら、不明の自衛隊機についてややこしい話をしようとしている。
「さっきまでやってたんですけどねぇ…」と残念そうにして、コロッと話が変わる。「今日はお休みですか?」
「いや、仕事の合間で」
「忙しいですね。おなか減ったでしょう」
それでやっとカウンター席に座る。

どうせすいてるんだから、と小上がりに誘導される。
思っていたより小さい店で、カウンター実質4席と、小上がりに4人用テーブル2脚。通路が狭いから、たしかにカウンター席に誰か座ったら後ろを通れそうにない。
調理場におとうさん。晩年の夢路いとし師匠に似てはる。
なんだかのんびりしていて、注文を聞こうってそぶりがまったくみられない。

おかあさんにお勧めを聞くと、人それぞれだからとのこと。そりゃそうだ。
ちょっと迷って、にんにくかつ定食1000円を注文。
客1人なのにここまで5分はかかった。
そしてこの間のやりとりに、僕はすっかりなごんでしまった。

壁に格言やらおもしろ川柳やらが掲示してある。
写真を撮らせてもらっていると、おとうさんが笑いながら、
「おもしろい? 若い人には珍しいかもねー」
「お父さん、こういうの書くの好きだよね」とおかあさん。
その横には大黒頭巾にちゃんちゃんこ姿のお二人の写真。お孫さんやお子さんとおぼしきたくさんの人たちに囲まれている。
「おじいちゃん、傘寿。おばあちゃん、喜寿」と書いてある。
いつの写真かわからないが、少なくともその年齢はいっているということ。おそれいりました。

にんにくかつ定食ができあがる。
「タレ、あるからね」とおとうさん。かつを横の皿のタレにつけて食べるということ。
このタレがにんにく風味だから、にんにくかつなのであった。
チキンの一口かつタイプで、ごろっと重量感のある塊が4つ。低温でじっくり揚げた感じで、衣さっくり、中はやわらか。
やはり料理名にしているくらいだからタレがおいしい。にんにく風味に加えて強い酸味が食欲をそそる。このタレによってチキンかつがワンランク昇格した感じ。
ただし、想定外にキムチが付いてきてダブルにんにくになってしまい、食べ終えて相当におっているのが自覚できるほど。それには注意が必要だ。
ちなみにご飯の茶わんの形が変わっていて、平底だから見た目よりも量は多い。

ひと仕事終えたおとうさんは小上がりの端に腰かけてテレビを見ながら14日の北朝鮮のミサイル発射問題をおかあさんに解説している。アメリカに向けて発射したが中国のそばに落ちてしまい中国が怒っている、といろいろ情報が錯綜している。
新聞のテレビ欄をみて「あれ? 『ひよっこ』終わっちゃったのか?」って、もう1時半なんですけど。
情報化社会において厳密であるべきもろもろが、ここではいたって自由なのであった。
食べ終えて支度をしていると、「急いでるんですか?」とおかあさん。
「はい?」
「いや、食べるの速いから」
「そ、そうですか?」
たしかに自分は結局のところ現代社会のスピード感で生きてるんだもんな、と気づかされる。
こういう人たちにはかなわない。

[DATA]
とんかつ 和光
東京都小平市花小金井7-1-45
[Today's recommendation]

https://youtu.be/3OeZMEgo5QA
清瀬の「枡壱」が閉店してしまってとんかつ分野に隙間感が漂っているので、なんとか補充したい。そこで、ずっと気になっていながらもう一歩の勇気が出ず入りそびれていた「とんかつ和光」に意を決して挑む。
「たのもう!!」
右の引き戸を開けると、雑誌や書類がうず高く積まれたいすに進路を阻まれる。あらためて左から入店。
出だしからずっこけてる。
「遅いですね」と、藪から棒にお店のおかあさん。
「はい?」
「1時過ぎてるね」
ああ、そういうことか。
なんだかいきなりペースを握られてる感じ。

このおかあさんはとにかく話し好きのようで、次々にいろんなことを言ってくるから腰を下ろす隙がない。テレビのチャンネルを切り替えながら、不明の自衛隊機についてややこしい話をしようとしている。
「さっきまでやってたんですけどねぇ…」と残念そうにして、コロッと話が変わる。「今日はお休みですか?」
「いや、仕事の合間で」
「忙しいですね。おなか減ったでしょう」
それでやっとカウンター席に座る。

どうせすいてるんだから、と小上がりに誘導される。
思っていたより小さい店で、カウンター実質4席と、小上がりに4人用テーブル2脚。通路が狭いから、たしかにカウンター席に誰か座ったら後ろを通れそうにない。
調理場におとうさん。晩年の夢路いとし師匠に似てはる。
なんだかのんびりしていて、注文を聞こうってそぶりがまったくみられない。

おかあさんにお勧めを聞くと、人それぞれだからとのこと。そりゃそうだ。
ちょっと迷って、にんにくかつ定食1000円を注文。
客1人なのにここまで5分はかかった。
そしてこの間のやりとりに、僕はすっかりなごんでしまった。

壁に格言やらおもしろ川柳やらが掲示してある。
写真を撮らせてもらっていると、おとうさんが笑いながら、
「おもしろい? 若い人には珍しいかもねー」
「お父さん、こういうの書くの好きだよね」とおかあさん。
その横には大黒頭巾にちゃんちゃんこ姿のお二人の写真。お孫さんやお子さんとおぼしきたくさんの人たちに囲まれている。
「おじいちゃん、傘寿。おばあちゃん、喜寿」と書いてある。
いつの写真かわからないが、少なくともその年齢はいっているということ。おそれいりました。

にんにくかつ定食ができあがる。
「タレ、あるからね」とおとうさん。かつを横の皿のタレにつけて食べるということ。
このタレがにんにく風味だから、にんにくかつなのであった。
チキンの一口かつタイプで、ごろっと重量感のある塊が4つ。低温でじっくり揚げた感じで、衣さっくり、中はやわらか。
やはり料理名にしているくらいだからタレがおいしい。にんにく風味に加えて強い酸味が食欲をそそる。このタレによってチキンかつがワンランク昇格した感じ。
ただし、想定外にキムチが付いてきてダブルにんにくになってしまい、食べ終えて相当におっているのが自覚できるほど。それには注意が必要だ。
ちなみにご飯の茶わんの形が変わっていて、平底だから見た目よりも量は多い。

ひと仕事終えたおとうさんは小上がりの端に腰かけてテレビを見ながら14日の北朝鮮のミサイル発射問題をおかあさんに解説している。アメリカに向けて発射したが中国のそばに落ちてしまい中国が怒っている、といろいろ情報が錯綜している。
新聞のテレビ欄をみて「あれ? 『ひよっこ』終わっちゃったのか?」って、もう1時半なんですけど。
情報化社会において厳密であるべきもろもろが、ここではいたって自由なのであった。
食べ終えて支度をしていると、「急いでるんですか?」とおかあさん。
「はい?」
「いや、食べるの速いから」
「そ、そうですか?」
たしかに自分は結局のところ現代社会のスピード感で生きてるんだもんな、と気づかされる。
こういう人たちにはかなわない。

[DATA]
とんかつ 和光
東京都小平市花小金井7-1-45
[Today's recommendation]

https://youtu.be/3OeZMEgo5QA